2014年4月24日木曜日

それから

それから一か月、10月の末、肌寒い雨が小止みなく
降り続く木曜日の午後3時ごろ、

静御前と篤姫の最終章(フィクションです=念のため)


篤(静の義姉83歳)が、心なしか背筋を伸ばして、いつもよりゆったり
と落ち着き払ってやってきた。頭のてっぺんからつま先まで隙のない身
だしなみは、いつものとおりで清潔・几帳面な生活ぶりが想像できる。

待合室では、患者さん夫々に自分の指定席を暗黙のうちに持って
いて、もし仮に、自分の「指定席」が埋まっているとなんとなくそわそわして、
落ち着かなさそうに見える。やむなく空席に座る人、また自分の席が空くのを
立ったまま待つ人、いったん外に出てみる人等々、色々なタイプのお客さん
がいる。いずれの患者さんも、自分の席が空いたならほとんど例外なく自分
の指定席に近づき、定位置に座れて満足そうに満足そうにつくつろいでいる。

篤は、運よく壁際の「指定席」を確保しまずは最初の目的は、何気に手に
入れた。彼女は、お隣さんとの会話を楽しむでもなく、相変わらず無口だが、
珍しいことに、この日は週刊誌に目を落としているようだった。
3時35分の定刻まで、それほどの余裕はないのだが・・・。

定刻の過疎バスに間に合うようにお薬を渡した。いつもの彼女なら
すぐに、バス停に向かうはずなのに、この日は動かなかった。
定刻を過ぎても、彼女は泰然と、週刊誌に夢中になってjるようだった。

静は、寝起き後を思わせる「ニューヘアーファッション」で、前かがみに
肩をすぼめて、白い息を吐きながら午後3時15分頃、処方箋と病院の
領収書を持って店に入ってきた。彼女は、身なりをかまわない人である。
店に入るなり、自動ドアを力ずくで閉じようとした。閉じるのだが残念ながら、
すぐ開く。何度か繰り返してスタッフの静止にしたがった。
彼女のミスマッチな紫のセーターが印象的だった。ウケた。
静は、クスリを受け取ると、篤の方に向かって、「シズは、いぬるぜよ
(帰りますの意)」。
すかさず、篤も、「アツも、いぬるぜよ!」
「雨が降りゆうき、待ちよれやいっしょにいのう、いうて言いよったろうがや?」
(雨だから、いっしょの車で帰ろう、と誘ってくれたはず・・・)
静は、まったく普通に、「そがあ言うても、軽トラじゃけ乗れんぜよ。」
つづけて、「先に、いんじょくぜよ。」
外に出て、気になるのか自動ドアを必死で閉じようとする。
結構体力が必要なんだが、何度も何度も閉じてみる。無理である。
諦めたあとは、悪びれる様子もなく、夫の軽トラに乗った。

篤は、一度立ち上がりかけたが、再び「指定席」に、腰をおろした。
不機嫌そうなまま、5時35分を待って過疎バスに乗った。
以来、篤がバス停に立つ姿を見たことがない。
静も、その後まもなく姿を見せなくなった。




2 件のコメント:

  1. 『京都のコメントさん』です2014年4月25日 20:33

    静ばあさんも、篤ばあさんも、何のてらいも無く自分を出せる、お・と・し・ご・ろ。
    その『おとしごろ』に向かって生きなければならないのなら、せめて蟻の歩幅で近づきたいけれど、なんだかカモシカの歩幅で近づいているようで・・・コワイ!!
    なにわともあれ、お元気で・・・・フィクションお二人さん。

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  2. 京都のコメントさんへ
     年齢のお話は、うちのスタッフたちは、ほとんどしません。理由は、わかりません。
     今日、庭の草除りを2時間もしました。相当疲れました。腰も、痛みます。

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